“ 好きなものを好きだと言う。愛を叫ぶ。いいものはいいと自由に表明する。誰だって、そうしていいんです。偏見で作品や愛好者をけなす人のほうがどうかしている ”

三浦しをんの久しぶりの書き下ろし小説、『墨のゆらめき』は実直なホテルマン・続(つづき)と、奔放な書家・遠田のバディものだ(関連記事 ) 。

ともに「手紙の代筆」に奮闘する中で、正反対の2人の友情は少しずつ深まっていく。Amazonのオーディオブックサービス「Audible」で朗読版が先行配信され、5月31日に単行本を上梓した 。

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繊細な感情描写が光る小説と、自身の日常をコミカルに描くエッセイ、どちらも一級に面白いのが作家・三浦しをんのすごいところだ 。

エッセイで特に読者からの支持が高いのが、ハマっているものについて熱く語る筆致。近年は映画『HiGH&LOW』(通称ハイロー)シリーズをきっかけに「EXILE一族」ことLDHグループにハマり、コンサートで全国を飛び回る日々だという 。

子どもの頃からBL(ボーイズラブ)を愛読してきたことを公言しており、作家としてのキャリアの初期、20年以上前からBLへの愛を言葉にして日記やエッセイでつづってきた 。

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「 推し」という言葉が一般化するずっと前から、何かを推し、ハマり続けてきた人生――好きなものへの向き合い方を聞いた 。

推しへの愛、SNSで書きたくなりませんか?

――最近はEXILE一族(LDH)にハマっているとさまざまなところでお話されていますが、三浦さん、SNSはされていないですよね ?

やってないですね。全然やりたいとも思わないです 。

――例えばハイローの新作やライブを見たあと、このほとばしる気持ちを仲間にぶつけたい … … !みたいなのはないですか 。

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ライブを見ると興奮しちゃって、感想文を書いては一族にハマっている友人たちに送りつけてますけど。迷惑(笑)。オープンに何か書きたい気持ちってないなぁ 。

Twitterやインスタは情報源としてはざっと見ているけど、本名でやってないし使い方がよくわからずROM専です。投稿ゼロ 。

BUCK - TICKと一族関係の公式をいろいろフォローしているだけで … … 私のインスタはネイルと花屋とBUCK - TICKと一族の男たちしか流れてきません(笑 ) 。

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――そうか、一次情報として。一族の皆さん、それぞれやっていますもんね。エッセイでは赤裸々に書かれているので、そのバランスが気になります 。

シンプルに、SNSで何を発信したらいいかわかんないです。「おはよう」とか言えばいいの ! ?

――「推し活」という言葉はもうずいぶん世の中に定着しましたが、三浦さんはそんな言葉ができる以前からひたすら愛を叫んできた人だなと思っていまして 。

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そうですね、ずっと。誰にも頼まれてないのに 。

とはいえ、これはオタクと呼ばれる人の多くがそうかなとは思うんですけど、「今日から推し活しよう!」とかじゃなくて、「気づいたら推さざるを得ない状態になっている」わけじゃないですか。留めることはできないですよね、あふれる気持ちを 。

あんまり熱量高く語っていると「あの人なんか怖い」「大丈夫?」みたいに言われておびえられることもあるんですけど。熱狂的すぎておかしい、何かに取り憑かれたんじゃないか、みたいな …… 。

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――「様子がおかしい」エッセイも度々ありますもんね 。

ええまあ。ある意味で、何かに取り憑かれているといって間違いじゃないですね 。

BL愛は「趣味というには比重が高すぎる」

――三浦さんといえばBLをこよなく愛することで知られていますが、最近はあまりBLのお話をされていない気がします。引き続き、嗜んではいらっしゃるのでしょうか ?

あったりまえじゃないですか ! 嗜むどころではないですよ。もう生活の一部ですからね、物心ついたときから。趣味というには比重が高すぎる、ライフワークです 。

でも、確かに最近は積極的にBLについて喋ってないんですよね。それは、こんなにみんなが楽しく堂々と、和気あいあいと楽しめるようになってきて、私もそうしているし、別に大声で何か言うことないかなっていうのが大きいです 。

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――先人きって旗を掲げなくても 。

そうです、ムシロ旗を掲げて自由を要求しなくても … … 我々の革命はすでに成し遂げられた ! BLは市民権を得た ! むろん、自由を阻害するものがあったら、またいつでも戦う所存ですが 。

愛と怒りを原動力に

――最近はいわゆる「BLドラマ」も多数制作され人気を集めていますが、当時は今より冷たい目、偏見の目で見られていたと思います。BLへの愛をまっすぐ語るには今より勇気も必要だったのではと想像するのですが、振り返っていかがですか ?

おっしゃる通り、ずいぶん空気も違いましたよね。20年前、30年前はBLというもの――私が好きになった頃は、そもそも「BL」って言葉がなかったですけど――自体がもっと日陰者扱いで 。

BLが好きで、っていうと、もうすごいオタク、変な人、みたいな感じだったんですよ。BLの世界を愛している人はそれまでもずっといっぱいいたんだけど、仲間内で楽しく読んで、外部にはあえて言わなくていいかな、どうせわかってもらえないだろうし、という感じ。熱く応援しているけど、あくまで密かに、ですよね 。

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で、もちろん私もそうしていたんだけど、やっぱりBLの小説やマンガの中にものすごい傑作があったり、素晴らしい才能の持ち主がいたりすると、「すごい!!!」と叫びたくなるんですよ 。

だけど読みもせずに「どうせBLでしょ」とけなす人、バカにする人がたっくさんいて。今はだいぶそんなことなくなっていると思いますが、当時はね 。

それが私は本当に嫌で嫌で、なぜBLを好きな人、一生懸命BLを書いてる人が、「なにそれ」とバカにされ、傷つけられなきゃいけないんだと。腹に据えかねて「お前ら知りもしないのになんなんだ!」とめちゃくちゃ怒っていました 。

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あの頃BLのことバカにしてた人たち、今は「偏見なんて何一つありません」って物わかりのいい顔してますけど、私は忘れてないですからね。「あの時のお前らのあの発言、覚えているからな!」って今もずっと怒りを燃やしています 。

――その「怒り」が原動力だったんですね 。

それとは別に、やっぱり誰かと語らいたかったんだと思います。それこそ今みたいにTwitterをはじめとするSNSもないし、同好の士に向けて発信しようと思ったら、手段はブログぐらいでしたかねえ 。

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私はとにかくネットに疎くて当時はブログもやっておらず、でも、「これ本当に面白いよね!」「素晴らしいよね!」と言い合いたいし、願わくはもっと多くのかたにBLの魅力を知ってほしい。その思いがとどめられずにエッセイに書いちゃって。 … … まったく公私の区別がつけられていないですけど(笑 ) 。

そしたら「BLを紹介するエッセイどうですか」とお声がけいただいて連載(のちに『シュミじゃないんだ』として一冊にまとまる)につながったんですよね 。

そのあたりから、「三浦はどうやらオタクだ」となったんだけど、私は結果的にすごくよかったと思う 。

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結局20年以上経って、正解って言い方はしたくないけど、でも“正解”はこっちにあったなと思うんです。好きなものを好きだと言う。愛を叫ぶ。いいものはいいと自由に表明する。誰だって、そうしていいんです。偏見で作品や愛好者をけなす人のほうがどうかしている 。

今はBLの土壌から生まれた素晴らしい才能の持ち主たちが、多くの漫画誌や小説誌で当たり前のように輝いていらっしゃって、BLを知らない人たちにも広く読まれているじゃないですか。この未来にたどり着いたことが本当に喜ばしいですね 。

――凪良ゆうさんも大活躍ですよね(2023年に『汝、星のごとく』で自身2度目の本屋大賞を受賞した作家。一般文芸でデビューする前から長くBL小説を書き続けている ) 。

そうそう、ものすごい人気ですよねぇ !

もちろん、BLのみを書き続けていらっしゃる方も含めて、みなさんの活躍を見ていると、「ほら見ろ ! 言っただろう!」と勝手に誇らしい気持ちになります、BLファンの一人として 。

私も一人じゃないし、あなたも一人じゃない

――作家人生を通して「好き」を表明してきてよかったことはありますか ?

なんかね、みんなを自由にすると思うんですよ。一人一人が、自分の好きなものを好きだと遠慮せずに表明できる世の中って 。

私も一人じゃないし、あなたも一人じゃないよって、お互いの存在を認め合うことができる気がするんですよね 。

でもそれがわからない人、BLに限らず他人が好きなものをバカにしたり、「いい年してなにやってんだ」とか「女のくせにこんなのが好きなのか」って言ったりする人、未だにいるでしょう 。

でも、そういう人たちは絶対間違っているから。許しがたいです、冷笑してくる人は今もずっと 。

私はこれからもいろんなものを好きになって、好きだって書いて話して、平和に何かを愛してる人たちの心を傷つけるようなやつらを蹴散らしていきたいですね 。

――三浦さんがこれから何にハマっていくか楽しみです。まだしばらくは「一族」への愛は尽きなそうでしょうか ?

そうですね。今まさに三代目(三代目 J SOUL BROTHERS)をはじめとする各グループがツアー中で、毎日忙しくて仕事どころじゃない … … (笑 ) 。

――ハイロー新作の発表はまだですもんね 。

そうなんですよ、私が一気に沼にハマった時のキャストから若い世代になっているんですが、ハイローの世界観が大好きなのでずっと追いかけています 。

それも去年の『HiGH&LOW THE unsound X』で一段落ついた感じだったのでこのあとどうなるんでしょうね。でも叶うなら、そろそろ新しいハイローを、観たい …… ! ブチ上がりたい ! 新作 … … いつまでも待ってます !

👉 インタビュー前編はこちら:真面目な男が自由な男に出会い、魅了され、振り回され … … 。三浦しをんが久しぶりに描く「男と男」の物語

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